前回までの記事
さぐる・まとめる・いかす段階におけるねらい
さぐる段階では
設定した学習問題を追究する中で、TOTOの衛生陶器づくりを足掛かりに、問いを連続・発展させることにより、他の工業製品や流通、海外での生産や販売に着目させ、我が国の工業生産についての概念を形成する。
まとめる段階では
一人ひとりが出した学習問題への答えや追究してきたことをもとに、生成AIを用いてレポートの叩き台をつくり、Googleドキュメントを使用した共同編集を行い、クラスで1つのレポートを作成する。学校外への公開を前提とすることで、子どもたちの責任感を刺激し、何度も推敲したり調べ直したりする必要感を生む。
いかす段階では
いかす段階では、社会への関わり方を考える。
今回の単元では、「身近な課題を解決するために、どのような工業製品があればよいだろうか?」という問いを設定し、考えたことを表現する活動を設定した。
製品の企画をするためには消費者や顧客のニーズや課題を解決しなければならないということを想起させ、学んだことを生かしながら考えることをねらった。
さぐる・まとめる・いかす段階の単元計画
- TOTOのバーチャルミュージアムをタブレット端末で調べる。
- インターネットで情報収集を行う。
- 調べて分かったこと、まだ分からないことを整理し、TOTOに質問を送る。
- 安川電機について知る。
- TOTOミュージアムを見学する。
- 安川電機みらい館を見学する。
- 調べたことをまとめる。
- 明治のチョコレート製造について出前授業を通して学習する。
- 極東開発工業の特装車の生産について提供された資料をもとに学習する。
- 調べてきたことを比較し、共通点を見つける。
- 共通点をもとにクラス全体として、学習問題の答えをまとめる。
- 一人ひとりの単元の振り返りや学習問題に対する答えをもとに、レポートの叩き台を作成する。
- 必要に応じて、調べ直しながらレポートの完成度を高めて行く。
- 学んできたことを生かすために、自分たちの身の回りの社会における課題を解決するための製品のアイデアを考え、表現する。
- 完成したアイデアをレポートに挿入する。
単元の実際
学習問題
私たちの生活をより豊かにするために、企業はどのように工業製品を送り出しているのだろう?
追究の視点
What?
どんな製品を作っているのだろうか?
How?
それをどうやって生産・流通しているのか?
Who?
誰に届けているのか?
Why?
消費者や顧客のどのような課題を解決するために生産しているのか?
Step1:見学前にさぐる
TOTOのバーチャルミュージアムを使って、情報収集を行なった。
バーチャルミュージアムから、どんなことが分かりますか?
トイレの原料は石なんだ!
トイレをつくる流れはなんとなく分かりましたが、分からないことがたくさん出てきました。
インターネットを使って検索する
今度は、インターネットを使って調べてみましょう。
Youtubeに関しては、必要に応じて教師の端末から提示した。
資料が多くて、どれを見たらいいのかが分からないこともあった。その場合は、今何を調べているのか?を確認し、見るべき資料を教師が指定した。
調べて分かったこと、まだ分からないことを整理し、TOTOに質問を送る。
調べて分かったこと
- トイレ・風呂・蛇口などを作っている(What?)
- ウォシュレットを開発したのはTOTO(What?)
- 作り方の手順が分かった(How?)
- 海外のお客さんに向けても作っている(Who?)
- 色んな会社で取り入れられている(Who?)
まだ分からないこと
- なんでカラーバリエーションがあるのか?
- なんで常に新しいものを作り続けているのか?
- 作るときに工夫していることは?
- どれくらい大変なのか?
- 作るときに気をつけていることは?
- 原料はどこからきているのか?
- 出来上がったものは、どうやって運んでいるのか?サンマのときみたいに船で運んでいる?
- 北九州に工場があるのは、港と高速道路が近いからなのか?
- 海外のお客さんは、どんな人が買うのか?ホテルに使われていると書いてあったけど、普通の家にはないのか?
- TOTOの人たちは、どんなことに困っているのだろうか?
- 飯塚にもTOTOの看板があるけど、飯塚には何ヶ所ぐらい工場があるのだろうか?
実際に話を聞いてみないと分からないことがけっこうあります。
見学に向かう前に、事前にインターネットを使って調べたことは良かった。
地理的条件や人々の営み、流通などに着目した問いが生まれた。
また、「直接資料を見たり話を聞いたりする」という目的意識をもって見学に行くことにつながった。
このタイミングでTOTOと同じ北九州の地で安川電機が産業用ロボットを製造しており、見学に行くことを知らせた。
Step2:TOTOミュージアム・安川電機みらい館を見学する
子どもたちは見学を通じて以下の内容をつかんだ。一方で限られた時間の見学であったため、疑問も残った。
Step3:他の企業による工業生産について調べる
明治の出前授業や極東開発工業の資料提供を受け、他の企業の工業生産についても調べた。
明治のチョコレートづくりに関しては、カカオを輸入して加工するなど、外国との関係についてつかむために、取り上げた。
極東開発工業の資料を使用して、特装車の生産について調べる際、TOTOの衛生陶器づくりと関連させた。
また、教科書を用いて以下の内容についても調べた。
工業地帯・工業地域
太平洋ベルト
海沿いや高速道路の近くなど、原料や製品の輸送に便利な地域に、工業の盛んな地域や都市が多い。特に、関東地方の南部から九州地方の北部にかけて、工業の盛んな地域が続いている。
中小工場、大工場
工場数、働く人の数、工業生産額
中小工場の高い技術
国内の工場のほとんどが中小工場であり、大工場とともに日本の工業生産を支えている。高い技術をもった工場が集まる地域(大阪府東大阪市など)では、工場どうしで協力して製品の開発に取り組んでいる。
日本の企業ってすごいところがたくさんあるんですね
【県のテーマ】対話活動Ⅱと振り返り活動Ⅱの視点から
対話活動Ⅱ
自分なりの「問い」について調べた事実から自分の考えを形成し、他者と交流することで、相手の考えのよさ(自分にはない視点や気付きなど)を取り入れる。付加・修正や強化を行いながら自分なりの「問い」を基に社会的事象の特色や意味についての考えを深める。
実践における姿
調べる活動を通じて分かったこと、わからなかったことを共有した。そうすることにより、「原料はどこから仕入れているのだろうか?」「北九州に工場があるのは、港と高速道路が近いからなのか?」「TOTOの人たちは、どんなことに困っているのだろうか?」などの、我が国の工業生産に関わる概念を形成するための視点をもつことができた。
振り返り活動Ⅱ
さぐる・まとめる段階において、社会的事象の特色や意味を追究し、多角的な視点を基に自分の考えを再構成する。また、追究する中で新たに生まれた「問い」について書く。
実践における姿
調べて分かったことをノートに書いて振り返ったり、班の友達と振り返ることを通して、自分の考えを再構成することができた。その際、新たな「問い」が生まれ、メールでTOTOの人に再度問い合わせる(送ったのは教師だが)など、粘り強く追究する姿が見られた。
Step4:それぞれの企業の生産の様子について比較し、まとめる
調べてきたことを比較し、共通点を見つけた。
その共通点をもとにクラス全体としての学習問題の答えをまとめた。
これまでに分かったことを関連付けながら、一般化を図った。
学習問題と子どもたちの出した答え
学習問題
私たちの生活をより豊かにするために、企業はどのように工業製品を送り出しているのだろう?
子どもたちの出した答え
それぞれの企業はお客さんのニーズを調査して工業製品を作り海外や国内の企業同士で協力しあって私たちの生活をより豊かにしている。
その後、学習問題に対する答えや単元を通して学んだことをフォームで収集した。
一人ひとりの回答をもとに、GPT-4でレポートの叩き台を作成した。
必要に応じて調べ直しながら、レポートの完成度を高めていった。
流通に関しての理解がまだ不十分であるという児童からの求めを受け、トラックの運転手の人にインタビューを行なった。時間の都合上、教師がインタビューを行い、分かったことを児童に伝えた。
トラックで運ぶってことは分かったし、高速道路が関係していることもわかったんだけど、実際に運んでいる人の話を聞いて、詳しく知りたい。
実際にTOTOのトイレを運んでいたトラックの運転手の人に聞いた話
- かなり重たいから機械をつかって積み下ろしを行う。
- 1日で福岡から東京まで高速道路を走って運ぶ。
- 荷台をリレーして港まで運ぶこともある。
- かなり大変。睡眠時間が削られるし、体力も使う。
ただ、来年(2024年)から法律が変わるので、働く時間がかなり短くなる。
給料のことを考えると、法律が変わるのは心配。
人手が足りないことも課題。 - ミスがあったら作った人、お客さんなど、色んな人に迷惑がかかるので、TOTOなどのメーカーとしっかりと打ち合わせを行なっている。
- トラックは1台2億円以上する。だから安全運転を心がけている。
Step5:いかす段階
いかす段階では、社会への関わり方を考える。
子どもたちが追究を通して、見つけた日本の工業生産の課題は、「人材育成」であった。そのため、この課題を子どもたちに考えさせるのは、実感が湧かず、難しいと考えた。
令和5年度の福岡県のテーマから、目指す子どもの姿を参照すると、以下のように書かれている。
- 【思考力、判断力、表現力】
「問い」をくり返しながら、社会的事象の特色や意味について考えたり、社会への関わり方を選択・判断したりする姿 - 【学びに向かう力・人間性等】
「問い」をくり返すことで獲得した知識を、よりよい社会を実現するための課題解決に生かそうとする姿
これを受け、今回の単元におけるいかす段階の「問い」は、以下のようにした。
身近な課題を解決するために、どのような工業製品があればよいだろうか?
今単元の追究を通して、子どもたちは「工業製品には、消費者やお客さんの課題を解決することが求められている」という知識を獲得している。
このことを踏まえて、身近にある課題を解決するための製品を考え、表現する学習活動を行なった。
【県のテーマ】対話活動Ⅲと振り返り活動Ⅲの視点から
対話活動Ⅲ
新たな「問い」に対し、さぐる・まとめる段階までのまなびを生かして、よりよい社会の在り方について考えたり、自分の生き方について考えたりしたことを他者と話し合うことで、これからの生き方を選択・判断したり多面的・多角的に考えたりして自分なりの「問い」を基に社会との関わり方を考える。
実践における姿
子どもたちは、身近なところから課題を見つけることができた。考えてきたことを交流する中で、「ああ!たしかに小さい時に野菜を小さくしてもらっていた!」「港の場所って大事だね!」などの反応があった。
振り返り活動Ⅲ
いかす段階において、社会への関わり方や社会生活への生かし方に向けた構想から自身の生き方を見つめ直す。また、現状における課題について書く。
実践における姿
「今回は考えただけだったけど、大人になったら実際につくってみたい」という自身の生き方を見つめ直すような発言があった。しかし、これからの社会生活に生かすという視点から考えると、不十分であったと感じている。
この時期にはまだ公表されていませんでしたが、飯塚の半導体工場の誘致について取り上げ、教科書にもあるような「これからの日本の工業生産の発展に大切なこと」を考えさせる活動を設定してもよかったのではないかな。と考えています。
完成したレポート
Googleドキュメントの共同編集やコメントの機能を使用し、全員でレポートを完成させた。
その後、今回の単元を通してこれからの日本の工業生産や自分の生活に活かしていきたいことを考える機会を設定した。
学習指導要領のどこにあたるのか?
(3)我が国の工業生産について、学習の問題を追究・解決する活動を通して、次の事項を身につけることができるよう指導する。
知識・技能
- 我が国では様々な工業生産が行われていることや、国土には工業の盛んな地域が広がっていること及び工業製品は国民生活の向上に重要な役割を果たしていることを理解すること。
- 工業生産に関わる人々は、消費者の需要や社会の変化に対応し、優れた製品を生産するよう様々な工夫や努力をして、工業生産を支えていることを理解すること。
- 貿易や運輸は、原材料の確保や製品の販売などにおいて、工業生産を支える重要な役割を果たしていることを理解すること。
- 地図帳や地球儀、各種の資料で調べ、まとめること。
思考力・判断力・表現力
- 工業の種類、工業の盛んな地域の分布、工業製品の改良などに着目して、工業生産の概要を捉え、工業生産が国民生活に果たす役割を考え、表現すること。
- 製造の工程、工場相互の協力関係、優れた技術などに着目して、その働きを考え、表現すること。
- 交通網の広がり、外国との関わりなどに着目して、貿易や運輸の様子を捉え、それらの役割を考え、表現すること。
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