特別支援教育の推進に向けて ~通常学級担任に期待される役割と心構え~

目次

はじめに

皆さんは、次のデータをご存知でしょうか。文部科学省の令和4年調査によると、小・中学校の通常学級に在籍する児童生徒の実に8.8%が、学習面又は行動面で著しい困難を示すとされています。この割合は10年前の調査から2.3ポイントの増加であり、学校現場における特別支援教育へのニーズの高まりを端的に示す結果と言えます。

今や、発達障害を含む特別な教育的支援が必要な児童生徒は、特別支援学級や特別支援学校だけでなく、通常の学級にも多く在籍しています。つまり、通常学級の担任にとって、特別支援教育は「他人事」ではなく、「自分事」として捉えるべき喫緊の課題なのです。しかし、その一方で、専門性の不足や多忙感から、特別支援教育の実践に不安や負担を感じている教師も少なくないのが現状ではないでしょうか。

私たち教師は、一人一人の児童生徒の可能性を引き出し、豊かな成長を支えるという崇高な使命を担っています。障害の有無に関わらず、全ての子供たちに質の高い教育を提供することは、教師の責務であり、喜びでもあります。保護者や地域からの期待も日に日に高まっています。

では、通常学級の担任として、特別支援教育にどのように取り組んでいけばよいのでしょうか。ここでは3つの視点を提案します。

1. 児童生徒の特性を理解し、個に応じた指導・支援を工夫する

まずは、一人一人の学習面・行動面の特性をしっかりと把握することが大切です。「読む」「書く」「計算する」などの基礎的な学力に課題を示す児童生徒への指導では、ICTの活用などを含めた個別最適化された指導の工夫が有効です。行動面の課題については、周囲の児童生徒との関係性にも目を配りながら、本人の自己肯定感を高める関わりを心掛けましょう。

「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」の作成にあたっては、児童生徒の強みを生かした目標設定と支援方法の決定が重要です。保護者との合意形成を丁寧に行い、家庭との連携を密にすることが、児童生徒の生活や学習の改善・充実につながります。計画に基づく実践を着実に積み重ね、定期的に評価・見直しを行うというPDCAサイクルを確立することが求められます。

2. 専門性の向上と、校内外の連携を図る

2点目は、教師自身の専門性の向上と、校内外の関係者との連携の充実です。通級による指導の対象となる児童生徒の割合は、この10年間で3倍近くに増加し、10.6%に達しています。これは、担任教師の皆さんが、発達障害等の可能性のある児童生徒の特性に気づき、必要な支援につなげている証しと言えるでしょう。

しかし、課題は指導・支援の専門性をどのように高めていくかです。自主的な研修に加え、校内外の専門家を講師とした実践的な研修の機会を確保することが重要です。また、オンラインの情報共有ツールなども活用しながら、学年や校種を越えて、特別支援教育の実践知を交流し合うネットワークを構築することも有効でしょう。

校長先生のリーダーシップの下、特別支援教育コーディネーターを中核に、全ての教職員が協働して特別支援教育に取り組む体制を構築しましょう。加えて、医療、福祉、労働等の関係機関とのネットワークを広げ、専門的なアセスメントや助言を積極的に活用することが、学校の取組の充実につながります。外部人材の専門性に頼るのではなく、それを糧にしながら学校としての実践力を高めていく。そうした地道な努力の積み重ねが、大切だと思います。

3. インクルーシブ教育の理念の実現を目指す

3点目は、インクルーシブ教育の理念をしっかりと理解し、その実現に向けて取り組むことです。障害者権利条約の批准や「インクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」(中央教育審議会初等中等教育分科会、2012年)等を受けて、共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築は、日本の教育政策の大きな柱となっています。

インクルーシブ教育システムとは、人間の多様性の尊重等を強化し、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みのことです。その中で、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」を用意し、一人一人の教育的ニーズに応じた学びを保障していくことが目指されています。

通常の学級の担任の皆さんにも、インクルーシブ教育システムの中で重要な役割が期待されています。障害のある児童生徒と障害のない児童生徒が、お互いの個性を認め合い、支え合いながら共に学ぶ経験は、社会性やコミュニケーション力の育成につながります。違いを認め合い、共に生きる力を育てることは、知識の教授以上に大切な教育の役割と言えるでしょう。

また、交流及び共同学習の積極的な実施を通して、特別支援学級や特別支援学校との連携を深めることも重要です。自治体によっては、小・中学校に「特別支援教育支援員」を配置し、通常の学級における特別支援教育の充実を後押ししているところもあります。

通常学級の担任として、強い使命感を持って特別支援教育に取り組んでいただきたいと思います。一人一人に寄り添った温かなまなざしと、子供たちの可能性を信じる力。今の子供たちに必要なのは、そうした教師の献身的な支援ではないでしょうか。全ての子供たちの豊かな成長を、地域社会全体で支えていく。インクルーシブ教育の理念の実現は、私たち教師に託された大切な責務なのです。

データを見ると、中学校3年生になると、それ以前に比べて困難さを示す生徒の割合が大きく減少しています。義務教育から高等学校への接続をより円滑にするための組織的な取組が急がれます。一人一人の適性に応じたキャリア教育の視点を入れながら、小学校、中学校、高等学校の連携を一層密にし、切れ目のない支援体制を構築していくことが肝要です。

目の前の児童生徒一人一人を大切にする強い思いを携えて、明日からの実践に取り組んでいきましょう。全ての子供たちの輝く未来の創造に向けて。

参考資料

元データ

具体的な支援について

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この記事を書いた人

福岡の小学校教員 8年目 / 社会科の授業にICTを活用 / GEG Chikuhoリーダー /初心者向けICT研修講師/ 福岡社会科教育実践学会・日本教育工学会所属 / WordPressでICT活用術を発信 / 動画編集・デザイン・Web記事作成・論文執筆・楽曲制作も

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